注意:
以前フォーラムに置いていたお話の第二段です。

「……というわけ。で、その後はどうなるかというと……」

キーンコーンカーンコーン

授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「あら、時間がきたみたい。じゃあ今日はここまでね。続きは来週の保健体育で話しましょう」
今日もようやく午前の授業が終わった。授業は退屈じゃなかったけど、ちょっと難しかったなぁ。人体の不思議?不思議すぎてわかんないや。
ま、そんなことよりも…。
「さ、飯だぜ飯。腹減った~」
隣のふとっちょが声をあげる。実は僕もさっきからお腹が空いて、いつ腹の虫がなるか心配だった。
「今日の給食当番、早く準備しろよ~」
給食当番は給食室から給食を教室に運ばなきゃならないんだ。今日はだれが当番だったかな。
「おまえ、当番じゃなかったっけ?」
僕?…あ、そうだった。
「あ、うん。取ってくるよ」
備え付けてある割烹着を急いで着る。教室に運ぶのって結構面倒くさいんだよね。クラスのみんなより早く給食とご対面できるってことが唯一のいいこと…かな?
「あ、私も行かないとだね」
隣の女子も割烹着を着始めた。給食係は当番制で、班単位で決められている。隣の席のこの子も、同じ班だから当番なんだ。
他の班員もしぶしぶといった感じで着替えを始めたようだった。
「おまえ、早くとってきてくれよー。俺もう無理」
ふとっちょ。いちいちうるさい。
「わかったよ。…みんな先いってるよ」
着替え途中の人たちに一言告げて、僕は給食室に向かった。

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給食室に入ると、いい匂いがしてきた。

ぐーーーっ

僕の腹の虫が鳴る。は、恥ずかしい…。でも、周りには誰もいなかった。よかった。
さてと…今日の献立はなんだったかな。なになに…、牛乳、ヨーグルト、お米、…、あとカレーだ!カレー、大好きなんだよね。
周りには誰もいない。ほんとはいけないと思うけど、味見してみようかな。給食当番の特権は、ご対面だけじゃないよね。だれよりも先に味わえることだよね。いや、でもやっぱりダメかな。でも、だれも見てないからいいよね、いいよね。見るだけなら、いいよね。
誘惑に負けて、カレーの入った大きな鍋の蓋を開けた。
「う、うまそう」
中にはとてもおいしそうなカレーがたっぷりと詰まっていた。湯気とともに、食欲をそそるカレーのいい匂いが鼻をくすぐる。
見るだけなんてもったいない。ここはやっぱり味見を…。

「今日の給食なんだっけ?」
「たしかカレーだったと思うぜ」
「カレーかぁ。私、カレーはおかわりできちゃうかも」

廊下から声が聞こえる!班のみんながきたみたいだ。やばい、早く蓋を閉めなきゃ!蓋、蓋…あっ!
足を滑らせた!と思った瞬間、視界がぐるりと周り、目の前が真っ暗になった。

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う、うーん、ここは…あ、あつい、あつい。
気がつくと、真っ暗なところにいた。それもとても暑い。暑いだけじゃなくて、とてつもなく強烈な…カレーの匂い。
足を滑らせた衝撃でカレーの鍋をひっくり返しちゃったのかな。
起き上がろうとして、違和感に気がついた。あれ、体が動かない。というより、体の感覚がない!?
倒れた時に頭でも打ってどうかしちゃったのかな、僕の体。…そうだ。助けを呼ぼう。班のみんなも近くにいるだろうし。
おーい、だれかぁ…あ、声もでない。まるで金縛りにあった時のように何もできない!
どうしたらいいんだ。というより、どうなっているんだ?僕は。
混乱した頭でいろいろ考えていると、突然衝撃が走った。

ドーン

わわわ、なんだなんだ。地震!?

ガガガガ

続いて轟音。金属がぶつかり合うような音。そして、天から光が差した。
暗闇に慣れた目が、一瞬光に包まれる。徐々に戻ってくる視界。そこには…

「わぁ…いい匂いだわぁ…」

天を覆い尽くす巨大な顔…あれは、隣の席の女の子じゃないか。
なんで、なんでそんなに大きいの?
顔が引っ込んだ。と思うと、上空から巨大なおたまが降りてきた。僕の真横に着地して、そのままずぶずぶと沈む音が聞こえる。
ビチャ!
何かが僕にかかる。暑い、と同時に、それが何かわかった。これは…たぶん…カレーだ。
ということは、僕は…今みんなのカレーの鍋の中に!?
そんなことありえない!ありえない!
声に出して言いたかったけど、声はでなかった。体も動かせない!
周りの音が慌ただしいものになった。配膳の準備が整ったみたいだった。
僕の隣のおたまも、慌ただしく動き始めた。おたまはカレーを掬っては上空へと連れ去っていく。
その慌ただしい動きに鍋の中も大荒れだった。僕にカレーが降り注ぐ。もしカレーの中に沈んだら、カレーの中で窒息死かな。いくら大好きなカレーでも、それは嫌だ。動かせない体が沈まないように、必死に祈っていた。

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おたまが数十往復すると、大荒れだったカレーの海も静かになった。だいぶ量も減ったみたいだし、おたまもその動きをとめた。だいたい配膳が終わったのかな?
安心しきっていた僕の視界に、また大きな顔が現れた。
隣のあの子だ!
みんなの配膳が終わったから、次は給食係の番だったのか!
おたまでカレーの海がかき混ぜられる。その渦に僕も沈みそうになる。
やめて!かきまぜないで!し、しずむ…。
もうダメかと思った瞬間、突然下から何かに押し上げられた。
…た、助かった…。
ぐんぐん上昇していく。高速エレベーターみたい。

ぐんぐん…ぐんぐん…。

…目の前に巨大な顔があった。上空に見えた時より、さらに大きい。…距離が近いんだ。
巨大な鼻が真上にある。僕の周りの空気が、その穴の中に吸い込まれていく…。

「おいしそう…」

彼女の小さなつぶやき。でも僕にとってはとても大きなつぶやきだった。
地面が傾いてく感覚。体が滑って…そして、落ちる!
落ちる時に見えたのは、地面に広がる真っ白な…お米の地面!
お米にぶつかる。上空からはどろどろとカレーが流れてくる。僕はカレーに押し流され、端っこの方でカレーに埋まってしまった。

…助かってなんかなかった。隣の席の子の、カレーの具になっちゃったじゃないか。
これからどうなるんだろう。食べられちゃう?この子に食べられちゃう?
隣の席の子…クラスの中ではかわいい方かな。男子の中で密かに人気がある。
勉強ができて、スポーツも万能。背も高いし、すらっとしてる。胸が最近膨らんできた、とか友達と話してたっけなぁ。
長い黒髪もとても似合っていて…、あれ?なんで僕はこんなにも彼女のことを気にしているんだ。
食べられちゃうから?隣の席だから?それとも……。

ドン

トレーが彼女の席に到着する。僕に気付いてくれないかな。僕はここにいるぞー。…声は出なかった。

「それでは、食べましょうか。いただきます」
先生の声が聞こえる。
「「いただきま~す」」
教室中に響く生徒たちの声。楽しい楽しい食事の合図。
いただかれる側にとっては、死刑宣告にも聞こえた。
彼女と目があった…ような気がしたけど、全然気づいてくれなかった。そうだよな。僕は今米粒くらいの大きさしかないんだ。しかもカレーに半分埋まっているし…。
目の前を銀色の物体が通り過ぎた。僕を死刑台に連れて行く乗り物…。
僕の横をスプーンが通りすぎる。と、僕の隣にあったお米達はそっくりいなくなっていた。
上空に運ばれるスプーン。ここからだと彼女の顎と下唇しか見えないけど…。乗り物は彼女の口に入り、中の乗客を降ろして、戻ってきた。一粒残らず、彼女の口に消えていった。
顎が上下に動いている。口の中で、カレーと具とお米と、彼女の唾液が混ざりあっている微かな音が僕の耳に届いてきた。頭の中で、その光景を無理やり想像させられる…。と同時に、初めて喰われることへの恐怖がわいてきた。

―たしかにかわいい。いや、クラス一の美少女かもしれない。でも、でも!―

乗り物が僕の横を通りすぎる。根こそぎ米達を連れ去っていく。

―でも、でも、やっぱり。食べられるのは―

じっくり咀嚼している。中では食べもの達がこねられている。

―食べられるのは、食べられちゃうのは!―

ばらばらにされた食べ物は、舌の動きでひと塊りになり…。

―食べられちゃうのは、嫌だーーー!―

ごっくん。

食べもの達が彼女の真っ白で綺麗な喉を降りていく。かわいい服の、その奥の体の、さらに深いところに入っていく。

怖い。怖い。次は僕があの食べもの達のようになっちゃうんだろうか。掬いあげられて、口に運ばれて、噛み潰されて…、死んじゃう?
かわいい子なのに、人も殺さないようなかわいい子なのに、その口に入っちゃったら僕なんてひとたまりもないよ。
上空から銀の乗り物が降りてくる。
こっちにこないように、必死に念じるけど、まっすぐこっちに向かってきた。
銀の乗り物が僕のすぐ隣に着地して、僕に向かって移動してくる。
下の方からぐわっと持ち上がる感じがする。とうとう、僕も乗り物に乗せられちゃったみたい。

助けて、助けて!気づいて!

だけど声も出ない。彼女も気づいてくれない。

夢なら覚めて…。

だけど覚めることなく…上空へと連れ去られていく。
彼女の顔がぐんぐん近づいてくる。かわいい顔…だけどあまりに巨大だった。
彼女の口の前に到着する。一呼吸おいて、乗り物は彼女の口に向かって進んでいく。
ぴったり合わさった大きな唇が互いに離れて、地獄への入口を形作る。
開いた先には大きな白い歯がずらりと並び、綺麗なピンク色の、ところどころにカレーの乗った舌が現れた。
奥は薄暗くてよくわからないけど、綺麗なのどちんこがだらんと垂れさがっている。
僕を乗せた乗り物は、さらに口の方に移動して、ついには唇が視界に収まらなくなった。
中は唾液が糸を引き、歯と歯の間にご飯粒が挟まってる。唾液とカレーの混じった、独特の臭いが恐怖をさらに掻き立てる。
ついに歯を通過したみたい。
舌にあるぶつぶつまではっきり見える。その舌の先には、大きな穴…。
光がだんだんと少なくなってくる。唇が閉じはじめたんだ!
乗り物が唇の間から外に出ていく。でも僕らは外にはでられない。
乗り物から押し出されるように、僕は温かいぬるぬるの大地に乗せられる。唾液で覆われた舌は、僕を上顎に押しつける。
僕は舌に沈みこむ。舌のぶつぶつが顔をなでる。粘液がぴったりと張り付いて息ができない!
僕の背後で乗り物が完全にいなくなった、と思った瞬間、舌が動き出した。
食べもの達を歯の上に乗せる。僕も舌から転げ落ち、歯の上に乗せられた。
最初の一撃が来る!僕は、ここでぺちゃんこに潰されてお終いかもしれない。
上の方から形のいい歯が降りてくる。僕の体は噛み潰されて…。

もぐもぐ

潰されてはいなかった。運良く歯の直撃は避けられて、奥歯と奥歯の僅かな隙間に挟まっていた。
…いや、運が悪かったかもしれない。歯は激しく上下に動き、舌や食べものが僕にぶつかり、唾液が僕の呼吸をさえぎる。

くちゃくちゃ…

口の中ではカレーもお米もその他の具も、全てが等しくどろどろの何かにかわっていった。

挟まっていた僕を舌が掬いあげる。舌の真ん中に、食べもの達が集まってくる。
僕も例外なく、舌によって食べもの達の塊に押し込められる。体全体を覆うどろどろの食べもの達。
僕を含んだ塊が、舌と上顎に挟まれながら奥へと運ばれていく。

ああ…飲み込まれちゃう!

圧迫されながら、移動する塊。ついにはのどちんこを通過して、彼女のお腹に通じる大きな穴に到達した。
舌が塊を奥に押し込む。のどちんこは鼻への道をふさぎ、もう逃げることはかなわない。
残された道は、下に続く道。お腹の中に向かう道だ。
とても狭いところをぐぐっと押し広げながら塊は落ち込んでいく。

やめ、のみこまないで、たすけ…

ごくっ

僕を含んだ塊は、彼女の狭いのどを通って行った。

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周りからすごい圧力で下へと送られていくのを感じる。彼女の心臓の音も聞こえる。
一瞬だけど、永遠とも思える時間、僕は彼女ののどを通過して、ついにお腹の中に落とされた。

ドボン

すでに食べられていたカレー達が僕を迎え入れる。落ちた衝撃でカレーの呪縛はとかれ、広いお腹の中に放りだされる。

ぐるぐる…

周りから絶えず音が聞こえる。これが…消化活動?
そういえば、今日の授業でいってた。食べものの行方。
食べ物は口から入ってお尻から出る。口から入った食べものは、まず口の中で歯に細かく砕かれ、唾液と舌で混ぜ合わされて、消化をしながら飲み込みやすいようにするんだっけ。
それで飲み込まれたものはお腹の中にある臓器…えっと、胃だっけな。そこに入って消化される。
ってことは、ここが胃なのかな。消化ってなんだろう。
でも、食べられたものは…アレになるのはわかってる。それにするための活動?
ぼくも、彼女のアレになっちゃうの?
消化のことはよくわからないけど、今の僕じゃなくなっちゃうことはわかる。

上からは定期的に何かが…たぶんカレーだけど…が落ちてくる。この子、意外に食べるんだよなぁ。

ぐらっ

突然、世界が動いた。僕もカレーかなんかよくわからないものに沈みこむ。彼女が動いたのだろうか。

「おかわりするね」

世界全体に響く彼女の声。おかわりするだって?
もうこの世界は満杯に近いのに、まだ食べるだなんて。
本当にカレーが好きなんだなぁ。

どろ…どろ…

駄目押しのおかわりで、この世界は完全にカレーに占拠された。
僕はというと、カレーに埋もれながら、でも不思議と苦しくなかった。息、できなくても大丈夫なのかな?よくわからないけど、窒息死は回避できたみたい。

「ごちそーさまぁ」

食事が終わったみたい。そりゃ、これだけ満杯ならもう食べれないよね。彼女はこれから、食後の昼休みかな…。でも僕は、絶えず動く胃の中で翻弄されていた。
それにしても…ここの臭いはすごかった。美少女とは思えない臭いだ。当然だけど、ゲロの臭い。息しているわけじゃないのに、臭いは感じとれるみたい。カレーの匂いは微かにするけど、もう食欲をそそる匂いじゃない…僕も吐きそうな臭いだ。けど、なぜか吐くことはなかった。
今自分がどういう状態なのか、鏡があったらみてみたいけど、生憎体も動かせなくて、触って確かめることもできない。なんとなく、なんとなくだけど、体が崩れていっているような気がする。体が分解されている…?これが消化?
そういえば、授業でいってたっけ。食べ物はそのままの形では、栄養として取り込めないんですって。
これが取り込むための準備なの?…僕は、彼女の栄養になるって、ことなのかな。栄養…どういうことなんだろう。
もう食べられることに対する純粋な恐怖は薄れて、これから先自分はどうなってしまうのか。そちらの不安を感じ始めていた。

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「はぁーーー。午後の授業も終わったぁ。今日は食べ過ぎたからお腹が重いよ」
彼女の声が聞こえる。そっか。外では授業が終わったんだね。僕がいなくてもだれも心配してくれないなんて…薄情なクラスメイトだよ。
僕は、すでに体がバラバラになって、とても小さくなったように感じた。確認しようがないからどうなっているのか正確なところはわからないけど。
はじめのうちはヒリヒリしたり、ちょっと痛かったけど、今は痛みも消え去ってしまった。ただただ漂うだけ。

ぐゅる…ぎゅる…

何か、送り出しているような音が聞こえる。たぶん、消化されたもの達が、次の臓器に向かっているんだと思う。僕もじきにそこに行くと思う。次は、どうなっちゃうんだろう。

「はやく消化されないかなぁ…」

今消化されてるよ。すごい勢いで押し出してる。そろそろ僕の番…。

ぐゅるるる!

僕はすごい圧力を感じつつ、次のところに押し出された。

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ここでは、ゆっくりと内容物が動いている。さっきまで僕がいた胃みたいに、こねる感じじゃない。
途中何か液をかけられたけど、動けない僕はゆっくりと流れに身をまかせて、筒のような空間を移動していった。道中でさらに分解されている気もしたけど。
たぶん、ここは小腸…かな?教科書に書いてあった気がするけど、何をするところかは漠然としか覚えてない。消化?吸収?…ともかく、ここで何かが起こりそうな予感がした…。

「はぁ~。宿題も終わったし、夕飯まだかなぁ~」

まだ夕飯前なんだね。ここにいると時間の感覚がなくなるなぁ…。そういえば、お昼から何も食べてないはずなのに、お腹へらないな。もう僕はそんな状態じゃなさそうだけど…。

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どのくらいたっただろうか。ゆらゆら揺れていた僕は、急に何かに引っ張られるような感覚にとらわれた。すると突然今までとは打って変わり、とても速い濁流に放りこまれた。どこだろう、ここは。よくわからない。吸収?されたのかな?
しばらく流されていくと、急にまた引っ張られるような感じがして、動きが止まった。どこかに着いたみたい。

「お風呂入ってくるね」

僕の世界が激しく動く。いつのまにか視界は真っ暗ではなくなっていた。外に出れたのか!?

しゅる、しゅる

突然、目の前にお風呂場があらわれた。自分はどこにいるんだ!?
鏡に彼女の裸体がうつる。膨らみかけた胸が女の子らしさを表している。…で僕の姿はみえない。

「胸、ちょっと張ってきたかな…また大きくなった気がするなぁ」

胸を触る彼女。すると突然視界が真っ暗になった。と同時に、潰される感覚。…そっか。彼女の胸に吸収されたのか。

…ええええええええええええええ

彼女の胸に…彼女の胸に…!
シャワーを出して、体を洗いだす彼女。その彼女がとてもかわいく見えた。今まで、ただの隣の席の女の子、だったけど、今はとても気になる彼女、になっていた。彼女の体の中を通過して、様々な消化液で分解されていく過程で、彼女に心も分解されて、吸収されちゃったのだろうか。それとも…食べられる前から?…わからない。
体の中は、とてもすごい環境で。今鏡に映っている彼女からは想像もできないけど。でも、それも事実なんだ。彼女はやっぱり普通の人間で。でも他の人とは違っていて…。
よくわからない。わからないけど、今僕は彼女の胸になっちゃった。彼女のことが気になっても、それを口に出すことはできない。彼女に気付かれることもない。

…こうなったら仕方ないな。彼女の胸として、がんばっていこう。
そう心に決めて…

意識を失った。

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「君、大丈夫?」
…もしかして、僕に話しかけてる?僕は彼女の胸なのに…。
「僕は彼女の胸ですよ」
と声にだして…あれ、声がでる。
目をあけてみる…。あれ、浴室じゃない。
「ふむ。何か変な夢でも見たのかしらね?でももう大丈夫そう」
隣をみると、保健室の先生がいた。
「給食室で倒れていたそうよ。あなたのクラスの子が発見したの。あとでお礼しときなさいよ」
「給食室で、ですか」
「ええ。まぁよかったわ。軽い脳震盪だったのかしらね。体動かしてみて。変なところない?」
体を一通り動かしてみる。特に動かないといったことはなかった。
「給食の時間は終わってしまったけど、給食係の子がカレーもってきてくれたわよ。食べる?」
カレー…。先程の体験が蘇る。夢…だったのかな?とてもリアルな夢だったなぁ…。夢に出てくるほど彼女のことが好きってことなのかな…。
「君、顔赤いけど、熱でもあるのかしら?」
「あ、ええ、いえいえ、ないです、ないです。たぶんないです。大丈夫です!」
「ふふふ、わかったわよ。とりあえずカレー、食べれるなら食べなさい。好きなんでしょ?」
「あ、はい」
なんで先生は僕がカレー好きだって知っているんだろう。
「あなたの隣の席の子、だったかしらね。カレー好きそうだからって持ってきたのよ。隣で見てればわかるんですって。あっと喋りすぎたかしら」
ちょっとイタズラしそうな表情を浮かべる先生をよそに、僕はカレーをむさぼるように食べ始めた。


その後、僕が彼女をまともに見れなくなったのは言うまでもない。