鬼が行き交う忘れ去られた都、旧都
地上との一切の交流を断ち切った鬼たちの楽園
そんな旧都の居酒屋にあの二人はいた

パル「また振られたぁぁぁぁ」
勇儀「ははは、これで50人目突破だね」

旧都でもその名を轟かせる程度の鬼女
いつものように振られた鬼女をいつものように鬼がなだめる

パル「なにさ、この独身貴族~あたしはバツイチだ~」
店主「お客さん、飲みすぎはよくねぇよ」
パル「うっさい、オヤジ。つまみだぁ。茹で小人よこせぇ」
店主「へいへい・・・」
勇儀「こ、小人!?」

パルスィの注文に勇儀が驚きの反応を示す。
人間食派が少なくなった妖怪たちのあいだで代替食として
造られるようになった食用小人。
味は人間とかわらないばかりか、通常の小人のほとんどが被食願望の持ち主で
大量生産もできるとあって人間食派の妖怪にかかせないものとなっている
鬼達もこの小人食が広まっておりこうしてつまみとしても出されるくらいであるが…

パル「何?食べたいの?」
勇儀「い、いや、いい…」

勇儀だけは小人どころか人間を食したことは一度もなかった。
その理由が…

パル「うふふ~♪勇儀、あんたその大口コンプレックスなんだよねぇ」
勇儀「言うなぁ~~~~!!!!!(゜□゜)」(鬼声「壊滅の咆哮」)

勇儀の怒号に居酒屋が吹き飛んだ。
そして唖然とする客と店を失い呆然とする店主と酔ったぱるぱるを残し
顔を真っ赤にした勇儀はその場から逃げ出した

勇儀「なんだい、パルスィの奴。あんな人前で…
   大体、なにが小人食だ。だってあれじゃん。
   自分の口の中人に見せるなんて恥ずかしいじゃん
   しかも舌で転がすんだろ?あたしには無理だね
   恥ずかしすぎて口の中に入ろうとしても
   『うわぁぁぁぁぁ』して食べたりは…ん?」

ぶつくさ独り言をつぶやく勇儀は台詞の中に自分ではない声を聞いた。
そしてふと、顔をあげると…親方、空から小人が…


ゴチン




勇儀「あいたぁ!!!」???「いったぁ!!!」
勇儀「てめぇ、どこみて・・・?」???「ひぃ、鬼だぁ!!た、食べないで」
勇儀「はぁ!?食べるわけないだろ」???「え?」
勇儀「え?」
勇儀&???「「え?」」


聞けばこの小人。外見は勇儀の額程度の大きさの小人だが地上から
妖怪に食べられそうなところをひたすら逃げてきたという。
普通なら小人は被食願望が強いのに珍しいこともあるものだ。
と勇儀は思った。
小人も妖怪のほとんどは小人食の妖怪ばかりだと思っていたのに小人を食べない勇儀のことを珍しいなと思った

二人はすぐ意気投合し、小人食わずの鬼と食われずの小人は常に一緒にいるようになった

パル「で、イチャイチャしてるとこ悪いんだけど……それどうすんのよ」
勇儀「どうするって何が?」
パル「小人よ。まさかあんたこのまま飼うつもりじゃ…」
勇儀「飼うってあいつは私の友達だぞ?」
パル「友達?どうだか…あんたあの小人の話をするときいつも顔が赤いの知らないでしょ」
勇儀「そりゃ、酒が…」
パル「じゃあ聞くけど。あの小人。私が奪って食べてもいいのね?」
勇儀「いやそれは困る」
パル「どうして?」
勇儀「どうしてって…えーと」
パル「好きだからでしょ?あの小人が誰かに盗られるのが嫌なんでしょ」
勇儀「そ、それは…」

酒の席では常に勇儀が豪快にパルスィを言いくるめる場面が多いが
今回ばかりはパルスィが一枚上手らしい
さすが橋姫。

パル「あんたはどうなの?」
小人「僕ですか?」
パル「あたしに食べられてみたくない?お腹の中でとろとろに消化してあげるわよ?」
小人「いや、僕はどうせ食べられるなら勇儀さんに食べ………あれ?」
勇儀「お、おまえ!?」
パル「はいはーい、やっぱり小人さんは小人さんねぇ。新鮮な小人は人間臭いわぁ」
小人「ち、違います。僕は食べられるのは嫌だけど勇儀さんにならいいかなぁって思って……」
勇儀「はぇ!?」
パル「おぉ、妬けるわねぇ。そうよねぇ、勇儀って男勝りな所あるけどかなりシャイでかわいいのよねぇ…まったく妬ましいくらいに」
小人「え、僕はそんな特別な意味で言ったんじゃなくて」
パル「ばかね、あなたがそうでなくとも女の子にとっては特別なの」
勇儀「あぅあぅあぅ//////////////////」
パル「ほら、節分の季節だし小人巻にでもして丸被りすればいいじゃない」
勇儀「///////////////////////////」
パル「あ、もう限界みたい」
勇儀「うあぁああああああああああぁぁあっぁぁあ」
パル「あ、逃げた」
勇儀「ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ」
パル「あ、戻ってきた」
小人「うわぁ!?」
勇儀「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」
パル「あ、拉致った」





家に帰った二人は無言のまま時が過ぎるのをただひたすら耐えていた
あんなことがあった後ではさすがに気まずい
結局この日は何も話さないまま二人は別々の寝床で寝ることになった

その夜…

小人「勇儀さん…起きてますか?」
勇儀「………」

返事はないが間違いない。起きている

小人「そのままでいいので聞いてください。僕は食べられるために小人に生まれたことが嫌で嫌で溜まりませんでした
   地上では妖怪や獣に追われ、それはもう辛い日々でした」

小人はつらつらと、自分の半生を語った
妖怪に食べられそうになったこと、人間に踏まれそうになったこと、鳥や虫に襲われたこと、どれも過酷な体験談だった


小人「でも、勇儀さんと出会ってわかったんです。僕はきっとあなたに出会うためにこの世に生を受けたんだって」
勇儀「…………」
小人「勇儀さん……僕は勇儀さんが………あなたが好きです。」
勇儀「…………………………本当かい」
小人「はい、嘘じゃありません」

その言葉を聞くと、それまで背を向けて寝ていた勇儀が起き上がり
小人の彼をじっと見つめた。

勇儀「あたしも……お前のこと好きだ。でも、わからないんだ。お前がほしいのは愛情なのか、食欲なのか、わからないんだ」
小人「きっと両方だよ。勇儀さん」
勇儀「両…方?」
小人「僕も勇儀さんを好きな気持ち、食べられたい気持ち。どっちも同じくらいあるんだ。だからそれはきっと僕たちにとっては当たり前の感情なんだよ」
勇儀「当たり前の…感情……」

勇儀がその言葉を反芻する。
そして静かに口を開いた

勇儀「私は…お前が食べたい。大好きなお前だから……お前だけを食べたい!」
小人「うん。いいよ、勇儀さんに…いや、勇儀になら僕は食べられても構わない」

もうそれ以上の言葉はいらなかった。
勇儀は両手でやさしく小人を包み込み丁寧に着物を剥いていった
裸になった小人は少し恥ずかしそうに巨大な鬼を見つめる
その姿が愛おしくて鬼の顔も真っ赤に染まる

ぺろっ

勇儀がおそるおそる小人の体に舌をつける
ほんの一瞬触れた味
それだけで勇儀は爆発しそうだった
小人はそんな鬼をみて笑みをこぼす

勇儀「な、なんだよぉ」
小人「本当に、勇儀はかわいいね」
勇儀「ぴぅ!?」

かわいいという言葉に反応して飛び退く勇儀
小人は苦笑しつつ勇儀に尋ねた

勇儀「あ、ああ、うん。美味しかった」

真っ赤になりながら小人の問いに答える
そしてついに鬼の腹が小人を招き始めた

勇儀「あの…さ、やっぱり恥ずかしいからお前が口の中に飛び込んでくれない?」

勇儀が皿を一枚手に取り催促する
小人はにっこりと笑うとその皿に身を預けた
ゆっくり皿が勇儀の口元に運ばれる

勇儀「い、いただきます///」
小人「あの、勇儀…もっと口開けて?これじゃ入れないよ」
勇儀「こう?あ、ああん//////」
小人「もっともっと口をあーんって開けて?」
勇儀「あ、…あーーーーん//////」

小人の目の前に巨大な洞窟が口を開く
それは彼のためだけに勇儀が見せてくれた大きく開かれた口内。
小人はその口の中にその身を投げ込んだ

口の中は綺麗な歯と艶やかな舌が印象的で食べられるのがもったいないくらいに思えた
大口コンプレックスと言っていたが勇儀の口内はそれほどまでに美しかった

一方勇儀も、初めて口に入れた小人の美味しさに舌鼓をうつ
いままで食べたどんな料理よりも彼の味は深く、濃厚で感動的なおいしさだった
勇儀はそのまま小人を味わい尽くし、小人は勇儀の口の中で悦んで咀嚼されていた
そして勇儀の下の動きが止まる
すっかりくたくたになった小人は舌の上でその瞬間を受け入れた
勇儀がゆっくりと上を向いて舌の上の小人を滑らせる
小人は足から喉の奥の暗闇に吸い込まれていく

ごくん

喉の奥に落ちた小人はゆっくりと食道を運ばれ、胃の中におさまる
ちょうど体育座りできる程度の広さの胃の中
小人は穏やかな表情で愛する鬼の栄養にされる運命に身をゆだねる
すぐさま胃袋が小人をやさしく包み、胃液を肌に塗りつけていく
激しい痛みにも関わらず小人は悲鳴一つあげず消化活動によって
少しずつ胃液と混ざり溶けていく
ゆっくりと
じっくりと
小人の体は勇儀の栄養になるためにとろとろに溶け、胃液と混ざり合い跡形もなく消化された
少年だった液体は勇儀の腸内へと運ばれ少しずつ勇儀の栄養になっていった

自分のおなかに手を当てながら勇儀は食後の余韻に浸っていた
消化された彼が今、まさに自分と一つになっていくのが実感できる
出来ることなら彼のすべてと混ざり合いたい
そんなことを思いながら勇儀は幸せそうな表情で眠りについた




翌朝
勇儀は温かな気持ちで目が覚めた
自分の中に愛する小人の想いが混ざり合っている
幸せだった

勇儀「さぁ、行こうか。パルスィに結婚の報告に行かなきゃならないからね」