泉大八『セクシートラベル』


あらすじ(Wikipediaより)

日曜日の朝、平凡なサラリーマン・ノリ彦が目を覚ますとまるでノミのように小さな体になってしまっていた。
ノリ彦は隣で寝ていた妻・ヤス子に気付いてもらおうと巨大な体をよじ登るが、ヤス子は小さくなった
自分の夫に気付かないまま目を覚まして体を起こし、ノリ彦はヤス子の脇をすり抜けて背中を転げ落ちてしまう。
ノリ彦は命からがらヤス子の腰を伝って臍に身を潜めるが、そこへ隣人の石橋氏が訪ねて来る。
最初はヤス子との世間話に花を咲かせていた石橋氏であったが、ノリ彦の姿が見当たらないと見るや
強引にヤス子を求め、初めのうちこそ抵抗していたヤス子も遂に石橋氏の求愛を受け入れてしまう。
ノリ彦は石橋氏の暴挙に怒り、ヤス子の臍を飛び出すがそのままさらに下へ転げ落ち、陰毛の茂みで
ヤス子の愛液に溺れかけたまま石橋氏がヤス子を犯すのを目の当たりにしてしまい、小さくなった自分の
無力さを嘆いて途方に暮れる。ところが、茂みの中から誰かがノリ彦を呼んでいるのに気付き
振り向いてみると、そこにはノリ彦と同じサイズの美しい女性が居た。その女性はイズミシキブサンと名乗る。
イズミシキブサン曰く、宇宙から地球を観察していた際にノリ彦の潜在的な縮小願望を宇宙船内で受信し、
その願望を具現化した状態が1000分の1型なのだと説明する。
そして、イズミシキブサンはノリ彦を「性と宇宙の神秘に触れる旅」へ案内すると言い、石橋氏に犯された
余韻に浸るヤス子の膣から子宮の中へと案内する。

※以下、本編のネタバレを含む

最初にこの小説を知ったのは「引っ込み思案な世界遺産」のデータベースだった。

宇宙人に選ばれた普通の男性が1000分の1に縮小されて、自分の妻の膣から子宮に入ったり、アヌスから
侵入して鼻の穴から出てきたりの冒険をします。


この一文だけではどんな内容か想像も付かず、しかし被食もUB(UnBirth)も大好物なのでこれは是が非でも
現物を読んでみたいと思い、3ヶ月ほど探し回って遂に現物を手に入れた時の感慨は今も昨日のことのように
覚えている。

冒頭、あらすじにもあるように主人公のノリ彦が訳もわからず縮小してしまい、相対的に1000倍の大きさと
なってしまった妻のヤス子に気付かれないまま自宅を訪ねて来た隣人の石橋氏にヤス子を寝取られてしまう
所から始まり、官能小説であるにも関わらず主人公のノリ彦自身が他の異性と肉体関係を持つ場面が
ほとんど無いのが何とも特異で、この物語は明らかに普通の性癖を持った読者に向けて書かれたものでは
ないと感じた。
妻の陰毛の茂みに身を潜めながら寝取られの現場を眼前で見せ付けられる破目になった後、ノリ彦は
イズミシキブサンに連れられてヤス子の膣から子宮の中へ。この時、膣内に石橋氏の精子が溢れ返っている
描写が無いのは(記述は無いながらも)石橋氏が“まだ”理性を保っていてコンドームを装着していたと
考えるのが一番、合理的だと思われる。その後、イズミシキブサンは「10日間の1000分の1体験のコース」の
一環としてヤス子の肛門から消化器官を逆送するコースへとノリ彦を案内する。結論から言うと、
体内へ入る時の描写がかなり精緻なのに対して体内を通過する際の描写は割合、あっさりしていて
食い足りなさが残った。それでも「美人は体の中まで美しい」。そんなことを感じさせるには十分な展開で、
鼻の穴から脱出したノリ彦が熟睡しているヤス子の上唇にそっと接吻する場面はなかなか感動的な
筆の冴えを感じさせた。

相対1000倍と視認が出来るか出来ないかぐらいの体格差もあり物語の中でノリ彦とヤス子、或いは
その他の1型人間との会話や意思疎通は最終章を除いて存在しないので、ノリ彦やイズミシキブサンら
1000分の1型人間によって引き起こされるミクロの世界でのあらゆる事象は1型人間が全く意識しない
中で行われる点が特徴であり、特にヤス子が石橋氏との不倫旅行で再び強引に肉体関係を求められた
結果の産物である受精卵を他の星で育てるため着床前に回収する場面はやがて一人前に育った子供と
ノリ彦夫妻との再会を予見させるのを始め、多くが読者の想像に委ねられている。

この作品が発表されてから四半世紀が経過するが、今こそ再評価されて欲しいと願っている。